覚えていることは沢山ある
あんたが確かな反応を示したのだってその一つ
何故不安になってしまったのだろう
けれど今ならその思いも理解しているつもりだ
青春ビギニング 40
無事豊玉に快勝した湘北高校はいよいよ明日、
ここ数年の覇者と呼ばれている秋田の山王工業高校と対戦する。
明日の為にもということで安西監督の用意した
昨年のインターハイでの海南対山王のビデオを見ることにした。
見ている間、赤木たちは息を飲みそのプレイっぷりに唖然とする。
ただ二人を除いては。
「・・・・何だかよくわかんないな。」
テレビを食い入るように見つめるも、は首を傾げる。
桜木にいたっては何故皆が黙っているのかさえ分かってない様子だ。
そんな二人を見た宮城はため息をつきながら呆れた口調で呟く。
「いいよなぁ素人は・・この凄さがわかんねーんだから。」
流石にこの言葉を聞いた桜木は少しだけ宮城につっかかる。
そんな桜木を横目に、は更に食い入るように見つめた。
よくみれば、あの海南の牧が押されているではないか。
(・・確かに、これは凄いな。)
ただどうしても、凄いとは思うのだが彼女にはイマイチ
その"凄い”という根本的なものがよくわかっていない。
こればっかりはたとえルールブックを読破したからと言って分かるものではない。
実際数多のプレイスタイルを見てこそやっと分かるものなのだ。
それをここ数ヶ月で身に着けつつあると桜木に問うのは少し早すぎる。
ただが分かるのは、ビデオの中にいる山王の背番号13番が
とても良い動きをしているということだけである。
そんなに気付いたのだろう、ビデオを一通り見終わると
安西がに向かってポツリと呟いた。
「彼は去年1年生でした。」
「!?」
それを聞いた途端、は物凄い勢いで安西のほうを見る。
つまり今年、この13番もとい沢北という男は二年生ということか?
1年生でこれだけのプレイである、この一年で更に伸びたのは言うまでもないはず。
ビデオを見、安西は各々に説明を始める。
それをメンバーはただ黙って真剣に聞いているのみ。
すると、普段の監督らしからぬ強い言葉を安西は発した。
「全国制覇を成し遂げたいなら 断固たる決意が必要なんだ!!」
その言葉に、誰もが思わず息を飲み込む。
それは先ほどまで山王の凄さをイマイチ理解していない桜木とでさえも。
ビデオも見終わり、今日はもう解散というときに
三井が立ち上がって外に出ようとしたところをが呼び止めた。
「みっちゃん、どこに行くの?」
「いや・・ちょっと夜風にな・・。」
「・・・あ、あたしも行こうかなー・・。」
そう言っては三井と一緒に外へと出て行く。
他のメンバーもさっさと外へ「夜風に・・」といいつつ出て行ってしまった。
ポツンと残されたのは桜木と流川とのみ。
桜木はくくっと笑いながら流川に尋ねる。
「てめーは夜風はいいのか?」
しかし、流川はいつものように悪態をつくだけ。
「どあほう。」
流川のその言葉をいつもの悪態とは思わず、
むしろ流川が核心を自分につかれたと思い込んだ桜木はニマニマと笑ってるだけ。
それが分かったは呆れるように桜木を横目で見る。
すると、受付のところにいた女将らしき人から桜木は呼ばれる。
「桜木さん、いらっしゃいますかー?」
呼ばれた方向を確認した桜木はスクッと立ち上がる。
横にいたも思わず女将のほうを向いた。
・・・流川はそのままシカトを決め込んでいたが。
「ああ、貴方が桜木さん?」
「おう。」
「お友達からお電話ですよ。」
「ぬ?お友達・・?」
洋平達かな、そう呟きながら桜木は女将の後をついていく。
ポツンと二人きりになった流川とはそのまま黙って座っているだけだった。
今まで感じたことなかったこの沈黙には少し考える。
少ししてから、は流川に話しかけた。
「・・目は?」
「・・・何とか。」
これでは答えになっていない。
試合の後しっかり眼帯をつけている流川の左目をは食い入るように見る。
そんなをよそに、流川は再びテープをある場所まで巻き戻し、
再生ボタンを押すとそのままジィッとテレビにうつるある選手を見つめる。
それは先ほども感心していたほどのあの13番、沢北だった。
沢北のところを執拗に見つめる流川を少しみていたが、
自分も再びテレビのほうに向きなおした。
流川もまた、がテレビのほうに視線を向けたのを確認したので
やっとテレビに集中しようと思う。
想う女が自分の方を真剣にみていれば、流石に集中できない。
そうして再び巻き戻す最中に流川ははたと思い出した。
今日、自分を手当てした際に見せた あのの切ない表情を。
『・・・良かった・・・!!』
あの時みせたの表情、流川はしっかりと脳裏に焼きついている。
同時に、変な胸騒ぎだってした。
けれどあの時はそこまで心に余裕がなかったから
今になって思い出し、考えたのだけど。
確実に、自分がに惚れているのは既に自覚している
日に日にその想いが確立されていくのだって分かる
こんな体験は自分の中で初めてなのだから
今のように余裕があればあの時何か行動が起こせただろうか。
そんなことを考え、流川は内心舌打ちをしたくなる。愚問だ。
ある程度停止ボタンを押して再び再生ボタンを押す。
しかし、自分がもう一度見たいと思うシーンはどうやらまだ先のようだ。
少し苛立ちも感じながら流川は再び巻き戻しを開始する。
仮に行動を起こしたとしても何をするつもりだ?
下手してとの今の仲をこじらせる気か、
いくら無鉄砲とかいわれてもそこまでの勇気は持ち合わせていない。
普段では考えもしない内容に、流川はらしくないと切り捨てる。
今はそれよりも、明日の試合のことに集中しなくては。
再び再生ボタンを押し、今度は自分のみたいシーンからだったので
ここでバスケのことだけに気持ちを切り替える。
と、先ほどの女将がまたコチラに向かって呼びかけをしていた。
「ナガレカワさん、ナガレカワさん。」
ナガレカワとは恐らく流川のことだろう。
そう思ったは流川の方を見つめる。
本人も自分のことだとわかっているらしく、
ビデオを一旦停止して女将のほうを振り返った。
本人を確認した女将は先ほどと変わらぬ笑みで流川に話しかける。
「お客さんです。」
女将にそういわれ、”客”といわれた人物がスッと前に出る。
その人物が誰か理解した流川とは目を見開いた。
「・・・!!」
なんと、あの南ではないか。
女将は南を通すと、そのままスタスタともといたほうへと戻ってしまう。
そのせいでますます三人の間にあった異様な空気の密度が濃ゆくなった気がした。
今日の出来事があったばかりで、一体この男は何しにきたのだ?
は思わず顔を険しい表情にする。
流川もジッと黙ったまま南を見つめていた。
しかし対する南は別に顔をゆがめるわけでもなんでもない、平然とした顔つき。
するとふとポツリと南は口を開く。
「ちょい外に出られへん?」
そういって南は顎でクイッと外を示す。
それを聞いた流川はコクリと頷き南のあとを追う。
思わずも二人の後ろについていった。
宿の外にある程度出ると南が静かにクルリと振り向き、ポツリと言った。
「・・・・スマン。」
そういって軽く頭を下げる。
その態度をみたはじっと眉をひそめる。
一瞬後ろの茂みのほうで桜木がずっこけたような気もしたが
桜木に構っている状況でもない。
すると南はポケットから何やら取り出そうとしてる。
そうして小さなビンのようなものをスッと流川の前に差し出してきた。
これを見たはますます不思議そうな表情を浮かべる。
「この薬、もしかしたらハレも少しひくかもしれん、うち薬局やねん。」
それを聞いた流川は別段気にすることもなく薬を受け取った。
「ああ、どうも・・。」
そう言って自分のポケットの中にそれを入れる。
その間もはジッと黙ったまま、南を睨みつけていた。
流石に少し耐え切れなくなったのだろう、南がに言ってくる。
「そんな怖い顔せんでも、もう何もせーへんよ。」
南のその言葉には睨んだまま言い返した。
「当たり前だ、流川にこれ以上何かしてみろ。マジでテメーをぶっ殺すぞ。」
の言葉を聞いた流川は驚いたのだろうか、少し目を見開いている。
そんな流川に気付くこともなく、はキッパリと言った。
「あたしはお前を許すつもりなんかないよ。」
「・・ええよ別に、それでも。」
ただな。
そう言うと南は一歩に歩み寄る。
南のその行動に当のだけでなく、流川も少しだけ怪訝そうな顔をみせた。
そんな二人に構うことなく、南はに言った。
「あんまり怖い顔ばっかすんなや、折角の綺麗な顔が勿体ないで。」
「は!?」
「・・・!?」
突然の南の発言にと流川は思わず絶句する。
と流川を交互にチラリと見た南は
予想通りの展開だったのだろうか、にわかに口角があがったようである。
目撃した流川は無論おもしろくない。
「自分、笑ろおた方が絶対可愛いで。」
「・・・ふざけてんのか。」
たまらず、は南に尋ねる。
表情はさっきの南の発言で呆気にとられているものの
声色は低く、彼女の不機嫌さがにじみ出ていた。
しかしそんなの態度にも南は怖気づかない。
「ふざけてへんよ、本当のこと言っただけやし。」
そう言って再び南は流川の方を見る。
流川は先ほど以上に南を睨みつけていた。
南はそんな流川に声をかける。
「んなおっかない顔すんねや、彼女かっさらおうとか思ってへんのやから。」
そう言うとスッとから後退する。
"彼女”という発言に流川もも唖然とする。
いつもなら軽くあしらうつもりだが今回はこのままでいた方が
かえって何も騒動を起こさないのではと思い、二人は黙ったままである。
そうすると自然、南もそれを肯定ととらえたようだ。
クルリと再び二人の方を向き直ると、南は流川に言った。
「日本一のプレイヤーになるゆうてたな。」
「!?」
南の発言には再び驚く。
”アメリカに行きたい”
あの言葉が一気にの脳裏によみがえる。
と、同時には険しい表情で二人を見つめた。
南の質問に流川は静かに答える。
「ああ。」
その真っ直ぐな流川の瞳を少しだけジィッと
南は見つめていたが、次の瞬間シュッと言い放つ。
「山王の沢北を倒せたらなれるかもしれんで。」
(沢北)
(・・・あの13番か・・!?)
確かに、山王の13番は自分でも分かる程いい動きをしていた。
あの沢北という男が流川の目指す日本一の高校生だというのか。
思わず、は息を飲み込む。
流川もまたジィッと南を食い入るように見つめていた。
next
という訳で南さん再登場でした。
私にとって南さんって不思議なポジションにいる。
さんと流川よりも一歩前にいる感じでかかせていただきました(意味わかんね!)
次回は久しぶりに三井さんやさん、3年メンバーがメインになります。
プラウザで戻ってくださいね