騙すよ、いつまでも

カーテンから降り注ぐ海は
季節のグラデーションを彩る
ぼくは一歩も進めない
海底に記憶は沈殿し
貝殻からもれてくるのは
聴き慣れた波音じゃない

硝子越しに見つめあい
ぼくたちは氷砂糖をなめていた
夏の砕けてゆく音だ
ツツジの蜜の味がする、
アゲハ蝶はこんな風に
ずっともどかしさを抱えていたのかな

濃紺の裾に涙を落とし
零下三十度で凍らせても
夜空のようにはならなかった
もう、逢うべきではないね
夢の中のひと

最後の口づけを
ぼくはいつまでも覚えておくだろう
鼓動をあそこに忘れてきたけど
月にのぼる花の姿は持ってきたから

泣くことはないよ
怯えることもないよ


(072306)